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神戸地方裁判所 昭和61年(ワ)391号 判決 1990年7月20日

原告(反訴被告)

吉村明洋

被告(反訴原告)

古本勝

主文

一  別紙事故目録記載の交通事故に基づく原告(反訴被告)の被告(反訴原告)に対する損害賠償債務は金一三三万一二一六円を超えて存在しないことを確認する。

二  原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、金一三三万一二一六円及び内金一二一万一二一六円に対する昭和五九年七月一四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告(反訴被告)及び被告(反訴原告)のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを一〇分し、その一を原告(反訴被告)の負担とし、その余は被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。

事実

(以下原告(反訴被告)を単に「原告」といい、被告(反訴原告)を単に「被告」という。)

第一当事者の求めた裁判

(本訴について)

一  請求の趣旨

1 別紙事故目録記載の交通事故に基づく原告の被告に対する損害賠償債務は金二五万九七五四円を超えて存在しないことを確認する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴について)

一  請求の趣旨

1 原告は、被告に対し、金一八七一万〇二六七円及び内金一七七一万〇二六七円に対する昭和五九年七月一四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴について)

一  請求原因

1 別紙事故目録記載の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

2 原告は、加害車を運転中本件事故を惹起し、被害車を運転していた被告に傷害を与えたから、民法七〇九条により被告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

3 しかし、本件事故により被告が受けた損害額は合計金六六九万八三四九円であるところ、被告は、昭和五七年一二月二〇日、別の交通事故によつて頸椎捻挫、腰部打撲、左下腿打撲挫創の傷害を受け、昭和五九年一月三一日、自倍責保険後遺障害等級九級一〇号の後遺障害を残して症状固定となつたが、被告の本件事故による傷害部位及び態様は殆ど同一部位で、症状も同様であるから、本件事故について三〇パーセントの素因控除による減額が相当であり、かつ、原告は被告に対し、本件事故による損害賠償として合計金五一〇万〇四九九円を支払い済であるから、原告の負担すべき損害賠償債務は、金二五万九七五四円を超えて存在しない。

4 ところが、被告は、本件事故に関し、なお原告に対して右金二五万九七五四円を超える損害賠償金の支払いを求めている。

5 よつて、原告は、被告に対し、本件事故に基づく原告の被告に対する損害賠償債務が金二五万九七五四円を超えて存在しないことの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2の事実は認める。同3の事実は争う。同4の事実は認める。

(反訴について)

一  請求原因

1 交通事故の発生

本訴請求原因の1の事実と同一であるから、これを引用する。

2 原告の責任原因

原告は、加害車を運転中、前方注視義務違反の過失により本件事故を惹起し、被害車を運転していた被告に傷害を与えたから、民法七〇九条により被告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

3 被告の受傷、治療経過及び後遺障害

(一) 傷病名

頸・腰部捻挫、右肩・頭部打撲、右下腿打撲傷、右肘部打撲傷等

(二) 治療期間及び医療機関

(1) 通院 野村海浜病院

昭和五九年七月一四日

(2) 入院 吉田病院

昭和五九年七月一四日から同年一一月二日まで

(3) 通院 吉田病院

昭和五九年一一月三日から昭和六二年八月一一日まで

(三) 後遺障害

(1) 症状固定日 昭和六二年八月一一日

(2) 神経系統の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるものとして、自倍責保険後遺障害等級九級一〇号に該当する。

4 被告の損害

(一) 治療費 合計金三一八万一七四五円

(1) 野村海浜病院 金三万六〇二五円

(2) 吉田病院 金三一四万五七二〇円

(ただし、昭和五九年七月一四日から昭和六〇年一二月二三日までの分)

(二) 入院雑費 金一一万二〇〇〇円

(三) 通院交通費 金八万三八四〇円

昭和五九年一一月三日から昭和六二年一一日まで二六二日間の通院を要したところ、市バス通院片道金一六〇円として合計金八万三八四〇円となる。

(四) 休業損害 金七八〇万円

被告は、本件事故当時、喫茶店「カリブイン」の店長として月収金三〇万円を得ていたところ、本件事故により、昭和五九年七月一四日から昭和六一年九月一日まで二六か月間就労不能であつたので、金七八〇万円(三〇万円×二六か月=七八〇万円)の得べかりし利益を喪失した。

(五) 後遺障害による逸失利益 金一二三一万三九八〇円

被告は、前述のとおり、本件事故当時月収金三〇万円を得ていたところ、本件事故による後遺障害によつて三五パーセントの労働能力を喪失したから、一か月につき金一〇万五〇〇〇円宛の得べかりし利益を喪失したものであり、その労働能力喪失期間は一〇年間とみるべきであるから、被告の後遺障害による逸失利益は、次の算式のとおり金一二三一万三九八〇円となる。

(一〇万五〇〇〇円×一二×一〇×〇・九七七三(一〇年間の月別新ホフマン係数)=一二三一万三九八〇円)

(六) 慰謝料 合計金八六九万二〇〇〇円

(1) 入通院分 金三六九万二〇〇〇円

(2) 後遺障害分 金五〇〇万円

(七) 素因控除

治療費を除く全損害額から三〇パーセントを控除するのを相当とする。

(八) 損害のてん補 合計金四九〇万八二二九円

(1) 治療費 金二二三万八〇二九円

(2) 休業補償 金二六七万〇二〇〇円

(九) 弁護士費用 金一〇〇万円

以上被告の損害額合計は金一八七一万〇二六七円となる。

5 よつて、被告は、原告に対し、金一八七一万〇二六七円及び内金一七七一万〇二六七円(弁護士費用金一〇〇万円を控除したもの)に対する本件事故発生日である昭和五九年七月一四日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の払いを求める。

二  請求原因に対する認否及び原告の主張

1 請求原因1の事実は争う。

2 同2の事実のうち、原告が、民法七〇九条により、被告の被つた損害を賠償すべき責任があることは認めるが、その余の事実は争う。

3(一) 同3(一)の事実は認める。

(二) 同3(二)の事実のうち、(1)、(2)は認めるが、(3)は争う。

(三) 同3(三)の事実はすべて争う。

(1) 被告は、本件事故による受傷以前の昭和五七年一二月二〇日発生の交通事故(以下「前回事故」という。)により受傷し、昭和五九年一月三一日、自賠責保険後遺障害等級九級一〇号の後遺障害を残して症状固定したところ、その約六か月後に、本件事故によつて、前回事故による受傷部位と同一部位を再度負傷した。

(2) 被告の本件事故による治療経過は、次のとおりである。

イ 昭和五九年七月一四日の本件事故直後、野村海浜病院受診

ロ 昭和五九年七月一四日から同年一一月二日まで吉田病院に入院

ハ 昭和五九年一一月八日から昭和六〇年一二月二三日まで同病院に通院

ニ 昭和六〇年一二月二四日から昭和六一年三月二四日まで治療中断

ホ 昭和六一年三月二五日から同年一一月二〇日まで吉田病院に通院(殆ど理学療法のみ)

ヘ 昭和六一年一一月二一日から昭和六二年八月一〇日まで治療中断

ト 昭和六二年八月一一日吉田病院を受診し、症状固定となる。

(3) 被告の症状は、昭和五九年一一月二日の退院時には、前回事故の症状固定時である昭和五九年一月三一日時点の症状程度までには回復しており、また、前記(2)、ハ記載の通院期間中のカルテには、症状記載事項として特筆すべき変化はなく、主たる治療も理学療法であることに照らすと、退院後約半年経過した昭和六〇年六月ころには症状固定となつていたものであり、仮にそうでないとしても、遅くても昭和六〇年一二月二三日までには症状固定となつていたものである。

(4) なお、被告による自賠責保険への被害者請求の結果は、自賠法施行令二条二項の加重障害の対象とならず、非該当と認定されており、本件受傷自体による後遺障害は認められない。

4(一) 同4(一)の損害のうち、(1)は認めるが、(2)は争う。吉田病院の治療費は金二二〇万二〇〇四円である。

(二) 同4(二)の損害は認める。

(三) 同4(三)の損害のうち、市バス通院片道金一六〇円はみとめるが、通院日数は争う。通院日数は一五一日が相当である。

(四) 同4(四)の損害は争う。

被告主張の月収額は、縁故による特別な額であり、また、休業を要する期間は一〇か月間が相当である。

(五) 同4(五)の損害は争う。本件事故による後遺障害が認められないことは、既に述べたとおりである。

(六) 同4(六)の慰謝料額は争う。

(七) 同4(七)の主張は認める。ただし、治療費についても減額すべきである。

(八) 同4(八)の事実は認める。ただし、(1)、(2)の他に、金一九万二二七〇円の既払いがあり、被告による損害のてん補額は、合計金五一〇万〇四九九円である。

(九) 同4(九)の損害は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一原告の本訴請求(債務額確定請求)について

原告主張の請求原因1(交通事故の発生)及び2(原告の責任原因)の事実については、当事者間に争いがなく、本件事故による原告の被告に対する損害賠償債務は、後記第二で述べるとおり、金一三三万一二一六円を超えて存在しないと認められるところ、被告が金一八七一万〇二六七円の損害賠償債務が存在すると主張していることは、本件訴訟上明らかである。

そうすると、本件事故に基、つく損害賠償債務が金二五万九七五四円を超えて存在しないことの確認を求める原告の本訴請求は、右債務が金一三三万一二一六円を超えて存在しないことの確認を求める限度で理由がある。

第二被告の反訴請求(損害賠償請求)について

一  請求原因1(交通事故の発生)の事実は、当事者間に争いがない。

二  右一の事実に、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、加害車(自動二輪)を運転中、前方注視義務を怠り、停止中の被告運転の被害車(スクーター)に追突し、被告に傷害を与えたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

そうすると、原告は、民法七〇九条により、被告が被つた後記損害を賠償すべき責任がある。

三  そこで、被告の受傷、治療経過及び後遺障害について判断する。

1  傷病名について

被告が、本件事故により、頸・腰部捻挫、右肩・頭部打撲、右下腿打撲傷、右肘部打撲傷等の傷害を受けたことは、当事者間に争いがない。

2  治療経過について

被告が、昭和五九年七月一四日野村海浜病院に通院し、次いで、同年七月一四日から同年一一月二日まで(一一二日間)吉田病院に入院したことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証によると、被告は、さらに、昭和五九年一一月三日から昭和六二年八月一一日まで(実日数二六二日)吉田病院に通院したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない(ただし、本件事故と相当因果関係のある治療の範囲については、後述のとおり。)。

3  後遺障害について

(一) 先ず、被告の症状固定の時期について、前掲乙第一号証によると、吉田病院の渋谷医師作成にかかる昭和六二年八月一二日付自賠責保険後遺障害診断書には、被告の本件受傷による症状が昭和六二年八月一一日をもつて症状固定した旨の記載がなされていることが認められるところ、他方、前掲乙第一号証、いずれも成立に争いのない甲第四号証、第五号証の一、二、第六、七号証の各一ないし三、第八号証ないし第一〇号証の各一、二、第一一号証ないし第一七号証、証人渋谷健の証言(第一、二回)によりいずれも成立を認めうる甲第二号証、第三号証の四、その方式・内容及び弁論の全趣旨によりいずれも成立を認めうる甲第三号証の一ないし三、五ないし一〇、証人渋谷健の証言(第一、二回)、被告本人尋問の結果(ただし、後記信用しない部分を除く。)、及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。すなわち、

(1) 被告は、昭和五七年一二月二〇日、神戸市兵庫区駅前通一丁目一番一号先交差点において交通事故にあい(「前回事故」)(その事故態様は、被告運転の自動二輪が普通乗用自動車と側面衝突したもの)、頸部捻挫、腰部挫傷、左股関節・左下腿挫傷、左橈骨及び尺骨神経不全麻痺の傷害を受け、その治療のため、昭和五七年一二月二〇日、二一日の二日間由井外科病院に通院し、同年一二月二二日から昭和五八年二月一四日まで金沢兵庫病院に入院した後、同年二月一四日からは、吉田病院に「上腕神経叢損傷、頸部捻挫」との診断名で同年七月二日まで入院し、さらに同年七月三日から昭和五九年一月三一日まで同病院に通院して、右昭和五九年一月三一日症状固定の診断を受けたこと、

(2) そして、右症状固定時における後遺障害についての診断内容は、次のとおりであつたこと、

イ 傷病名 頸・腰部捻挫(神経根損傷)

ロ 主訴又は自覚症状

頭痛、頸項部痛、耳鳴、複視、浮遊感、腰痛、右肩痛、右肘痛、右上肢の運動障害及びしびれ感

ハ 他覚症状及び検査結果

頸椎レントゲン検査:軽度の生理的前湾が存在するか全般的な可動性が悪い。右(上腕二頭筋反射、腕橈骨筋反射、アキレス腱反射、上腕三頭筋反射、膝反射)低下。握力:右六キログラム、左四二キログラム。

ニ 障害の程度及び内容

右上肢には神経根引き抜き損傷と思われる所見を有し、ジヤクソン徴候、レールミツテ徴候、モーレー徴候などが見られる。特に右手の握力は五ていし六キログラム程度に制限され、字を書く、箸を持つなどが不能である。右下肢も神経根症状が存在し跛行を認める。他に、大・小後頭神経領域に圧痛がみられ、自律神経障害の所見も認められる。通常の就労能力はないと考えられる。

ホ 運動障害の部位

頸部、肩、肘、前腕、膝、手関節、股・足関節、指関節

被告は、右後遺障害により、自賠責保険後遺障害等級九級一〇号の認定を受けたこと、

(3) その後、被告は、前回事故による受傷の症状固定から約六か月後に本件事故にあい、前回事故の時と同一の部位に頭部外傷2型、頸部捻挫、腰部捻挫の障害を受け、昭和五九年七月一四日の本件事故直後に野村海浜病院を受診した後、同日吉田病院に転医したものであるところ、右吉田病院における治療経過は、次のとおりであること、

イ 昭和五九年七月一四日から同年一一月二日まで入院(一一二日間)

ロ 昭和五九年一一月八日から昭和六〇年一二月二三日まで通院(実日数一五一日)

ハ 昭和六〇年一二月二四日から昭和六一年三月二四日まで治療中断

ニ 昭和六一年三月二五日から同年一一月二〇日まで通院(実日数一〇一日)

ホ 昭和六一年一一月二一日から昭和六二年八月一〇日まで治療中断

ヘ 昭和六二年八月一一日受診し、症状固定の診断

(4) 被告が本件事故により吉田病院を受診した際の初診時の所見は、自覚症状として、頭痛、頸・項部痛、腰部痛肩及び背部痛、右上下肢運動力低下及びしびれ感、眩暈が見られ、他覚所見として、頸部レントゲン検査の結果、側面・正中位の生理的前湾の消失、神経学的には両側大・小後頭神経領域に圧痛点が存在、頸項部運動制限著明、右上下肢運動知覚障害、右上下肢深部腱反射低下、スパーリング徴候、レールミッテ徴候、モーレー徴候など右頸部神経根症状が存在、との所見が認められたが、前記(3)イの入院加療により、被告の症状は、前記昭和五九年一一月二日の退院当時、ほぼ前回事故による受傷の症状固定時(昭和五九年一月三一日)の症状程度までに回復し、自覚症状として、頸・項部痛、頭重感、腰痛、右上肢痛等の訴えがあり、他覚所見としても、なお頸・項部運動制限や右上下肢運動及び知覚障害が認められたこと、

(5) 被告は、右退院後、前記(3)ロのとおり約一年間通院加療を継続したが、右通院期間中のカルテの記載には、症状記載事項として特筆すべき変化はないうえ、その間の主たる治療も牽引とホツトパツクによる理学療法に終始していたこと、しかも、被告は、前記(3)ハニホのとおり、その後三か月間は全く通院せず、昭和六一年三月二五日から再び通院を初めて理学療法を受けるようになつたが、それも同年一一月二〇日を最後にやめてしまい(その間、医師の診察は殆ど受けなかつた。)、それから八か月以上も経つた昭和六二年八月一一日受診して、同日症状固定の診断を受けたこと、

(6) 右症状固定時における被告の本件事故による後遺障害についての診断所見の内容は、次のとおりであること、

イ 傷病名 頭部外傷2型、頸部捻挫、腰部捻挫

ロ 主訴又は自覚症状

頭痛、頸、項部痛、腰部痛、右踵痛、右上下肢の運動力低下、右上肢の振戦、右肩・右上肢の知覚異常、時に眩暈

ハ 他覚症状及び検査結果

頸椎レントゲン検査:生理的前湾が僅か消失。腰椎レントゲン検査:軽度側湾が存在。握力:右九キログラム、左四四キログラム。

ニ 障害の程度及び内容

右モーレー徴候、右ラセーグ徴候など右頸部・腰部神経根症状が存在。右上・下肢運動力低下を思わすバレー徴候も存在。

ホ 運動障害の部位

頸部、肩、肘、手

(7) なお、本件事故による受傷の症状として、前回事故の際には認められなかつた左上肢の運動力低下、左頸、項部痛、左腰部痛が認められ、また、前回事故の後遺症として残存している頸部捻挫、腰部捻挫が、本件事故による外傷の治癒を遷延させていることは否定し難いこと、

以上の事実が認められ、被告本人尋問の結果中、被告が吉田病院への通院を二度にわたつて中断した理由に関する供述部分はにわかに信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そうすると、本件事故による受傷の症状固定日が昭和六二年八月一一日であるとの診断があつたとしても、右診断から直ちに右同日をもつて症状固日と認めるのは相当ではなく、むしろ、前記認定のとおり本件事故による受傷の部位・内容及び症状が前回事故によるそれとほぼ同一であるうえ、受傷時期も前回事故の症状固定日から約半年後であること、前記認定にかかる被告の入院加療に伴う症状の軽快状況、第一回目の通院期間(昭和五九年一一月八日から昭和六〇年一二月二三日まで)における症状の推移と治療内容、その後における被告の治療中断の状況等を総合するならば、前回事故による後遺症が本件事故による外傷の治癒を遷延していることや経過観察期間を考慮に入れても、遅くても第一回目の通院期間の最終日である昭和六〇年一二月二三日までに、被告の症状は固定したものと認めるのが相当である。

したがって、右症状固定後の治療はその必要性を欠き、本件事故と相当因果関係がないものというべきである。

(二) 次に、被告は、本件事故による受傷自体により神経系統の機能に障害を残し、右後遺障害は、服することができる労務が相当な程度に制限されるものとして自賠責保険後遺障害等級九級一〇号に該当する旨を主張するが、これを認めるに足る的確な証拠はない。

かえつて、右(一)で認定の事実及びいずれも成立に争いのない甲第一八号証の一、二によれば、被告には、既に、前回事故によって前記(一)、(2)に認定の後遺障害が存在し、右後遺障害は、神経系統の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるものとして、自賠責保険後遺障害等級九級一〇号に該当するものと認定されていること、しかして、被告は、本件事故により、前回事故とほぼ同一の部位を再度受傷し、本件事故における後遺障害診断書の所見は、前記(一)、(6)に認定のとおりであつて、前回事故の場合と同様の症状を示しているところ、その内容、程度、部位は、前回事故による後遺障害の診断所見と対比して、著しく縮小・改善されていること、なお、被告による自賠責保険への被害者請求の結果も、本件事故による後遺障害の診断所見として指摘された頭痛、頸部痛、腰部痛、上・下肢の神経症状が、自倍法施行令二条二項の加重障害の対象とは認められず、非該当とされていること、以上の事実が認められ、右認定事実に微する限り、被告の本件事故における前記後遺障害に関する診断所見は、未だ前回事故における後遺障害の領域を出るものとは認め難く、前記自賠法令上の加重障害の対象とはならないというべきである。

よつて、後遺障害に関する被告の前記主張は、失当である。

四  そこで、進んで被告の被つた損害について判断する。

1  治療費 合計金三一八万一七四五円

(一) 野村海浜病院 金三万六〇二五円

右は当事者間に争いがない。

(二) 吉田病院 金三一四万五七二〇円

前記三、3の(一)で認定のとおり、本件事故と相当因果関係の認められる被告の吉田病院における治療行為は、昭和五九年七月一四日から昭和五九年一一月二日までの入院治療及び昭和五九年一一月八日から昭和六〇年一二月二三日まで(実日数一五一日)の通院治療であるところ、前掲甲第六、七号証の各二、三、第八号証ないし第一〇号証の各二によると、右入通院治療費の合計は金三一四万五七二〇円であることが認められるから、右金額をもつて相当治療費と認め、これを超える吉田病院にかかる治療費は、本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。

2  入院雑費 金一一万二〇〇〇円

右は当事者間に争いがない。

3  通院交通費 金四万八三二〇円

本件事故と相当因果関係の認められる通院治療が、昭和五九年一一月八日から昭和六〇年一二月二三日までの実日数一五一日間であることは、前述したとおりであるところ、右通院に要する市バス片道料金が金一六〇円であることは当事者間に争いがないから、本件事故と相当因果関係のある被告の通院交通費は、金四万八三二〇円(一六〇円×二×一五一日)となる。

4  休業損害 金三六〇万円

被告本人尋問の結果及びこれにより成立を認めうる乙第二号証によると、被告は、本件事故当時、神戸市須磨区の須磨海浜公園内にある喫茶店「カリブイン」の店長として稼働し、月収金三〇万円を得ていたところ(なお、原告は、右月収額が縁故による特別な額であると主張するが、これを認めるに足る的確な証拠はない。)、本件事故による受傷の治療のため休業を余儀無くされたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

しかして、右休業を要する期間は、前記三、3の(一)で認定の被告の傷害の内容・程度、症状の軽快状況、通院状況を総合判断し、本件事故から一年間と認めるのが相当である。

よつて、被告の本件事故による休業損害は金三六〇万円(三〇万円×一二月)となる。

5  後遺障害による逸失利益 〇円

本件事故自体による後遺障害が認められないことは、前記三、3の(二)において説示したとおりであるから、被告の後遺障害による逸失利益の主張は失当である。

6  慰謝料 金一八〇万円

被告の受傷内容、程度、入通院期間その他諸般の事情に照らし、被告が本件事故によつて被つた精神的苦痛に対する慰謝料は、金一八〇万円をもつて相当と認める。

7  素因控除

前記三、3の(一)で認定の事実、前掲甲第二号証、証人渋谷健の証言(第二回)を総合すると、被告は、昭和五七年一二月二〇日、前回事故によつて頸部捻挫、腰部挫傷、左股関節・左下肢挫傷、左橈骨及び尺骨神経不全麻痺の傷害を受け、昭和五九年一月三一日、神経系統の機能に障害を残すものとして自賠責保険後遺障害等級九級一〇号の後遺障害を残して症状固定となつたが、その約半年後の本件事故により前回事故と同一の部位に再度ほぼ同様の傷害を受けたため、もともと脆弱な部位に再度損傷が加わつたことにより、被告の本件事故による傷害の治癒が遷廷したことが認められるから、被告の本件受傷による損害のすべてを原告に負担させることは、損害を公平に分担させるという損害賠償法の根本理念からみて適当ではないというべく、公平の観念に基づき民法七二二条所定の過失相殺の法理を類推適用して、原告の負担すべき損害賠償額を減額するのが相当であると解されるところ、前記認定の諸般の事情を総合勘案すれば、被告の本件受傷による損害については、その三割を減額するのが相当である。

よつて、被告の前記損害賠償請求権の全額金八七四万二〇六五円から三割を減額すると、金六一一万九四四五円(円未満切捨て)となる。

8  損害のてん補 合計金四九〇万八二二九円

被告が、損害のてん補として、治療費として金二二三万八〇二九円、休業補償として金二六七万〇二〇〇円の支払いを受けたことは、当事者間に争いがない。ところで、原告は、損害のてん補として右既払い金の他に金一九万二二七〇円を被告に支払い済であるから、右金一九万二二七〇円も控除すべきであると主張し、いずれも成立に争いのない甲第二〇号証の一、二、第二一号証の一ないし三によると、原告は、被告に対し、コルセツト代金一万五九〇〇円及び付添看護料合計金一七万六三七〇円を支払い済であることが認められるところ、被告が原告に対し、右コルセツト代及び付添看護料の支払いを求める請求をしていないことは本件記録上明らかであるから、前記金一九万二二七〇円を控除するのは相当でない。

したがつて、前記認定の被告の損害賠償請求権の金額から右の損害のてん補を控除すると、残損害額は金一二一万一二一六円となる。

9  弁護士費用 金一二万円

本件事案の内容、訴訟の経過及び請求認容額その他諸般の事情に照らすと、弁護士費用として原告に損害賠償を求めうる額は、金一二万円と認めるのが相当である。

五  以上に説示のとおり、原告は被告に対し、本件事故に基づく損害賠償として、金一三三万一二一六円の支払い義務があるものというべきである。

第三結論

よつて、原告の本訴請求は、本件事故に基づく原告の被告に対する損害賠償債務が金一三三万一二一六円を超えて存在しないことの確認を求める限度で理由があるから右の限度で請求を認容し、その余の請求は、理由がないのでこれを棄却することとし、被告の反訴請求は、原告に対し、金一三三万一二一六円及び内金一二一万一二一六円(弁護士費用を除いたもの)に対する本件事故発生日である昭和五九年七月一四日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから右の限度で請求を認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三浦潤)

事故目録

(一) 日時 昭和五九年七月一四日午前九時五〇分ころ

(二) 場所 神戸市須磨区須磨浦通一丁目一

(三) 加害車 自動二輪車

右運転者 原告

(四) 被害車 原動機付自転車

右運転車 被告

(五) 態様 追突

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